コラム・レポート

朝から仕込み、夕食にかける和食店のこだわり(56-1)

朝から仕込み、夕食にかける和食店のこだわり(56-1)コリドー街の入り口角にある店の前は竹や石など和のイメージが漂う。側面の通りの壁はブティックのような印象さえある。

【OL銀座食楽部】泰明小学校の前にある銀座コリドー街入り口角に黒い壁に白地のアルファベットの大きなロゴが目につく。ちょっとしゃれた近代的な印象の店が旬の素材にこだわる和食店「ひどり(HIDORI)」である。

店先には竹の木が並び、その裏の左側奥にある入り口まで石の小道が続き、まるで秘密の隠れ家へ導かれていくようだ。店内に入ると別世界が広がったかのように、活気にあふれる広々とした厨房とそれを囲むように整然と並んだカウンターが期待感をかきたてる。


17時開店に向けてオープンキッチンでは朝から料理人が出勤し、その日の仕込みが始まる。

開店時間よりかなり早い、昼頃に訪れたにもかかわらず、厨房では7、8人の料理人がてきぱきと仕込みをしている。「ランチはやっていないんですよね?」と改めて聞くと、迎えてくれた支配人の柳川祐次(やながわ・ゆうじ)さんが「うちのお店は、加工品を使わず、全部手間ひまかけているので、(昼には)間に合わないんですよ。席数も130席強あるので」と、昼間は営業していない理由を説明した。

確かに最近、はやりの多くの大型ダイニングでは、加工品が多用されているのは周知の事実だ。「ひどり」では17時開店に向け、10時前から料理人が出てきて仕込みがはじまるという。

店名はどこからきているのだろうか。聞いてみると、カレーや練りわさびなどで馴染みのある「エスビー食品のグループです」と柳川さんが前置きし、「エスビー食品」のマークである「ヒドリ印」から来ていると説明してくれた。

いつも笑顔で迎えてくれる支配人の柳川祐次さん。

席に座り、メニューを開くと、和食店らしい定番料理がなく、本日のメニューしか載っていない。話を聞くと、季節の移り変わりとともに変化する旬の食材やその日の仕入れ状況に応じて、総料理長の高橋朝章(たかはし・ともあき)さんが午後になってから当日のメニューを決めるからという。

「本日のおすすめ」だけでなく、単品も含めて料理のメニューはすべて日替わりで書かれる。だから、「ひどり」では日付け入りのメニューとなっている。コースも5000円から9000円と3種類あるが、その内容は日々異なるわけだ。

今日はどんな素材があるのだろうか、と問うような私の目に、高橋さんが皿に盛った素材や箱に入ったままの木の芽を見せてくれた。築地には毎日は行けない高橋さんだが、魚も野菜も信頼している仕入先から「いいものが入っているんだけど買わない?と押し売りのような電話が毎日かかってくるんですよ」と苦笑しながら語った。

毎日季節感のある旬の素材が届く。左から奈良の丸なす、高知のシュガートマト、鹿児島のそら豆、京都のみょうが竹で、皿の外にあるのが木の芽。

あらかじめ注文した以外の材料も、仕入先が新鮮な素材にこだわる高橋さんの意を汲んで「押し売り」してくるからこそ、結局は季節ごとの最高の食材を仕入れることができるわけだ。

例えば、「たけのこでは日本一と豪語している京都の上弥(かみや)から仕入れている」(高橋さん)そうで、京都「上弥」といえば、よく知られている料亭やホテルにも納めている京野菜を中心とする八百屋だ。

また、魚は天然物にこだわり、仕入先からその日の一番の魚介類を調達しているので、「本日のお造り」の内容も毎日変わり、取材当日は山口県の「赤むつ(別名のどぐろ)」、千葉県勝浦の「金目鯛」、三重の「さわら」などを見せてくれた。

千葉県勝浦から仕入れた天然物の「金目鯛」。

いろいろと見た中で、最初に「本日のおすすめ」から「フルーツトマトと新たまねぎのサラダ」(750円)を注文した。トマトやラディシュの赤とベビーリーフなどの緑、新たまねぎと皿の白さのコントラストが鮮やかだ。

崩してしまうのが惜しいくらいで、散らされた旬のたまねぎを食べてみると、酸味のあるドレッシングの中でほんのりと甘みがする。小ぶりで真っ赤な半割りのフルーツトマトをハシでつまむと、底が切り落とされ、口に運ぶと酸味がなく、まるで砂糖がかかっているみたいに甘いトマトだ。

フルーツトマトは何度も食べてきたが、それとは違うフルーツトマトで、その甘さに感激した私に高橋さんが「高知県のシュガートマトという種類のもので、糖度が10%近くあるんです」と説明してくれた。普通のトマトは糖度が4%から5%なので、シュガートマトの甘さが想像できるだろう。

「フルーツトマトと新たまねぎのサラダ」。シュガートマトは糖度が普通のトマトの倍以上ある。

今や野菜にしろ、魚介類にしろ、1年中いろいろなものが手に入るし、加工品も発達している。そんな時代だからこそ、あえて旬にこだわる「ひどり」で季節を味わえるぜいたくさを楽しみたい(【OL銀座食楽部】では複数のフードアナリストの女性が実際にレストランを訪れ、そのレポートを毎週、金曜日から週末に掲載します。今回は猫と旅と食べることをこよなく愛するkeikoさんが書いています)。

店名=「ひどり(HIRORI)」(中央区銀座6-2先、コリドー街入り口角、03-3571-7301)

営業時間=17時から23時まで(注文は料理が22時)。日曜定休。

料金は単品400円から。コースは「大地のコース」(5000円)、「風のコース」(7000円)、「太陽のコース」(9000円)の3種類がある。ワインはグラスが800円からで、ボトルが4000円から。

URL= http://www.sbfoods.co.jp/shop/text/hidori.htm

注:エスビー食品は前身の「日賀志屋(ひがしや)時代」(1923年創業、1949年に「エスビー食品」に改称)に商品が全国津々浦々にわたるようにと、「太陽(SUN)に向かって飛びたつ鳥(BIRD)のように」という願いを込めて「ヒドリ印」というマークをつけて、販売していた。その「ヒドリ印」が「ひどり」の由来となっている。

注:「上弥」(京都市北区衣笠大祓町6-1、075-461-5566、http://kyotokamiya.web.fc2.com/index.htm)は京野菜を扱う京都の八百屋で、たけのこが特に有名。

注:「シュガートマト」は、JAコスモスが高知県高岡郡日高村で、トマトの原産地のアンデスの高地と同じような環境で、極端に乾燥させた土地で栽培したよく締まった中玉の糖度の高いトマトだ。収穫は2月から5月がピークとなる。光センサーによって糖度と酸度が測定され、糖度では7%から10%以上を4段階に分けている。

日本フードアナリスト協会

この記事を友だちに送る >>