コラム・レポート
仏職人の評価より、客の反応を重視する職人に技あり(1)
【ayaのパン流浪記】パンが大好きです。おコメは年に片手で数えられる(一応折り返しますよ)くらいしか食べない「パン食べ子」なんです。「いつから?」とよく聞かれますが、それが本当によく分からなくて・・・「気がついたら」としか返事のしようがないのですが、いまやほぼ毎食、パンです。
冷凍庫には常にストックがないと不安になるくらいです。「私の体は小麦でできているの」とか公言していたら、どこぞの有名パティシエ(菓子職人)と婚約できたりしないかと思う今日この頃・・・できればブーランジェ(パン職人)の方がいいですが(!?)。
オズ(OZ)マガジン、ダンチュウ、エル・ジャポン、ブルータス、この春はたくさんの雑誌でパン特集が組まれました。それぞれの雑誌の価格と情報のバランスには、正直バラツキが大きかったように思えましたが、誌面の出来、不出来ではなくて、今回は私の個人的注目記事について書きます。
ある雑誌で、日本のバゲッドを本場フランスに持っていって、パンの中でもバゲッドを専門に評価する「バゲッド評価の世界的第1人者」に食べてもらうという4ページのコーナーがありました。
素直に受け止めれば「日本のバゲッド、フランスで通用するのかしらん」とドキドキするし、斜めに受け止めると「そんなのどうでもいいじゃん」と思わないこともないのですが、とにかく読まずにはいられません。
2人の評価人が10種くらいの日本のバゲッドを食べて、気泡の入り具合がどうだ、クラスト(いわゆるパンの外皮)がどうだと食べながらウンチクを垂れる記事をめくると結果発表ページが・・・結論として日本のバゲッド、かなり優秀だそうです(やっぱりね!)。が、私が注目したのは結果ではなくて、私の知っているある職人さんがその結果に対して述べたコメントでした。
要約すると、「あなた方じゃなくて、ただおいしいって食べてくれる人に食べて欲しい」といった主旨(こんな乱暴な言い方はしていませんけど)で、思わず心の中で拍手、惚れ直してしまいました。
その職人さんはたぶん、日本では「トップレベル」というかむしろ「トップ」ではないかと思われる位置にいます。何軒ものパン屋で店の顔として新店を作り、育て、いまは独立して「自分の好きなことだけをするパン屋」を営んでいます。
彼が作ってきた店には明らかに彼のスピリットが残っており、彼が去った今でも舌だけでなく、目でも楽しめる輝きを持ったパンが並ぶ店頭で、暖かいサービスが受けられます。今のお店ももちろんそうですが、ものすごく洗練された店構えなのにセレブじゃない私でもとっても居心地がいい雰囲気が確かにそこにはある、そんなお店です。
常に謙虚、バゲッド評価人をうならせたバゲッドを含め、商品は常に「過程」だと彼は言います。「完成」することは決してないのだと。また、自らを「男芸者」と評し、本当に人を楽しませるのを喜びにするような人柄です。
その集大成が「おいしいといってもらって一番うれしい」と本人が言い、店の代表作でもあるバゲッドなのでしょう。そして・・・あのコメント、他の誰でもない、彼が言ってくれたからこそ価値がある素敵なコメントでした。ほぼすべての雑誌を手に取り、記事を熟読して一番印象に残った言葉です。
「おいしい」って素敵な言葉ですよね。それじゃ、なんだかよく分からないとか、評価としてふさわしくないとか言う人もいるけれど、評価にさらされている人々が一番欲しいひと言なのかもしれない、と私は思うのですが・・・いかがでしょうか。
おフランスのバゲッド評価人の「トレビアン!」ではなくて、近所に住む人の「おいしいねー、これ好きだわぁ」が聞きたくて毎日パンを焼き続けている日本を代表するブーランジェに免じて、ただ「好き」で「おいしい」と思っているのも「アリ」にしていただけたらうれしいですね。
ここでは私が「大好き」なパンを切り口に、今週の「おいしかった」を紹介していこうと思っています。例えば「パン屋さんのワイン会で知り合った方と池袋で鯛に舌鼓」とか、「パンにもよく合う料理が作りたくて手当たり次第にお料理教室に通ったらある先生に出会った」とか、もちろんストレートに「こんなおいしいパン屋さんに行って来ました」とか。次回以降はそんなお話を・・・(【ayaのパン流浪記】は首都圏で暮らすOLのayakoさんが毎週、パンを切り口にエッセイを書きます)。


