コラム・レポート
産地の素材を、遊び心を大切にして調理するシェフの鳴神(54-2)
【OL銀座食楽部】「ミシュランガイド東京2008」で1つ星を獲得した「レストラン ナルカミ(restaurant NARUKAMI)」は、シェフの鳴神正量(なるかみ・まさかず)さんが2003年に独立し、6丁目に開店した店である。
鳴神さんは「ターゲットになっているとは思っていませんでした」そうで、「ミシュランガイド」で自身の店が星を獲得したと知ったのは記者会見の翌日、なんと「ミシュランガイド東京2008」発売日(2007年11月22日)の2日前だった。
「記者会見の当日にミシュラン側から電話が入っていたのですが、その日はあいにく店の定休日で翌日に知ったんです」と語るほどで、直接連絡をもらっても、発売日当日に掲載された自分の店の文章を読んでも「まだ実感ができなかった」と当時を振り返る。
鳴神さんが星の獲得を実感し始めたのは本が発売され、約1カ月が経過した12月頃のことだ。予約の電話が殺到し、海外からの問い合わせも多くなり、その影響を肌で感じたという。
大きな風が舞い込みながらも、「僕が常に料理を作りつつ、サービス心で料理のできる体制を作りたい」という鳴神さんはこれまでと変わらない姿勢で厨房に立っている。丁寧にメーンの肉料理の焼き加減を手の感触で確かめる一方、テーブルでは肉料理を前に、ソムリエナイフで有名な「ライヨール(LAGUIOLE)」の切れ味のよいナイフが並べられている。
運ばれて来たのはロゼ色の断面を覗かせる北海道産の「蝦夷豚(えぞぶた)」のロース、「エピス(スパイス)」風味のもも肉を巻き込んだ自家製の「カネロニ」、ブルゴーニュ産のホワイトアスパラガスを2色のソースで味わう色鮮やかなひと皿だ。
茶色いソースは、牛肉のだしをさらに煮詰めた「ジュ・ド・ビアンド」、グリーンのソースはアボカドオイルがベースの「シブレット(ハーブ)」のソースである。さりげなくあしらわれた野菜にはトリュフがふんだんに盛り込まれており、皿に顔を近づけると、左右正面から異なる香りが押し寄せてくる。
食事を終えた後、「これだけ精巧な料理を作り上げて行く中で、『苦痛』はありませんか」と鳴神さんに尋ねると、一呼吸おいた後に「苦痛だったことがなかったわけではありません」と静かに話し始めた。
開店当初は「受ける料理」を考え、低迷していた時期があった。それを経て、「お客様は楽しみに店に来るのだから、自分自身も遊び心を残しておかないとと思っていますし、自分自身にどんなに辛いことがあったとしても、今は自分の料理を作り上げる自信があります」と自信を見せる。
そんな鳴神さんに転機が訪れたのは2年ほど前のことだ。迷っていた時期に再び訪れたフランスで、自分の歩んだ道をポツリポツリとたどりながら、「自分のやりたいこと、やるべきことを見つけられた」と清々しく語る。
「日本人が作るフランス料理」を追求する鳴神さんは、料理を作り終えた後、厨房で料理をしている時とはまるで別人のように優しい表情を浮かべた。
それとは対照的に、緊張感が漂う中で、若手シェフと連携を取りながら、最高の状態でひと皿が仕上がるよう確認、調理を進めるその背中や空気は、華やかに彩られた表舞台に出される皿の重みを改めて感じさせた(【OL銀座食楽部】では複数のフードアナリストの女性が実際にレストランを訪れ、そのレポートを毎週、金曜日から週末に掲載します。今回は自ら築地で仕入れも行うサロネーゼ薫子さんが書いています)。
注:「ライヨール」はフランス南西部のライヨール村で作られているナイフで、200年前に護身用からはじまり、今ではソムリエナイフとして使われている。
注:「カネロニ」とは大きな筒状のパスタで、この中に牛肉を水、玉ねぎ、セロリ、にんじんなどと混ぜてミンチ状にし、卵とチーズと合わせて詰めたりする。
注:「シブレット」はアサツキとよく似たねぎの仲間の多年草で、ヨーロッパからアジアの北半球の広い地域に自生しており、北海道や東北地方ではエゾネギと呼ばれている。刻んでスープ、魚、卵料理、サラダ、冷製ソースなどの薬味として用いられている。
注:「トリュフ」はセイヨウショウロ科セイヨウショウロ属のきのこの総称で、広葉樹の根に菌根をつくって生育し、地中に塊状の実を作る。ヨーロッパではキャビア、フォアグラとともに「世界3大珍味」とされ、「黒いダイヤ」とも呼ばれる。
店名=「レストラン ナルカミ(restaurant NARUKAMI)」(中央区銀座6-13-7、新保ビル地下1階、03-6226-2225)
営業時間=ランチは11時30分から14時(注文時間)、ディナーは18時から21時(注文時間)、月曜日定休、ゴールデンウィーク中は5月5日から8日まで休み。
料金は昼が4725円(平日のみ)、6300円、8400円のコース。夜は7875円(平日のみ)、1万500円、1万3650円のコース。サービス料は昼夜共に10%。
URL= http://www.restaurant-narukami.com/
日本フードアナリスト協会





