コラム・レポート

仏トロワグロ出身のシェフが編み出すフレンチ(54-1)

仏トロワグロ出身のシェフが編み出すフレンチ(54-1)レンガの壁と中央に飾られた花が印象的な赤と黒を基調にしたモダンな店内。

【OL銀座食楽部】東銀座にほど近い昭和通りの裏手に「レストラン ナルカミ(restaurant NARUKAMI)」がある。2007年11月に日本の飲食業界を賑わせた「ミシュランガイド東京2008」で1つ星を獲得したフレンチである。

赤と黒を基調にした店内は、厨房前のカウンターを合わせて18席。備前焼きの花瓶に活けられた花や帯柄のタペストリーが、オーナーシェフの鳴神正量(なるかみ・まさかず)さんの出身地である兵庫県赤穂市周辺や和の空気を漂わせ、モダンな印象に自然な和らぎを加えている。

厨房からは客席の様子が確認できる造りになっており、タイミングを大切にしていることもうかがえる。客席側からは料理を仕上げるシェフのすばやい動きや磨きあげられた鍋などの道具が目に入り、次の皿を待つ時間が楽しいひとときとなる。


2003年に独立したオーナーシェフの鳴神正量さんはフランスの3つ星レストランでシェフ・ド・ポワソン(魚部門の料理長)を務めた。

目と鼻の先に「築地」がありながら、店で使われる食材のほとんどは、各地の生産者から直接送られてくる「産直」を使用している。「類は友を呼ぶんです」と話す鳴神さんは作り手との関係を大切にし、北海道や地元・瀬戸内の食材を中心に扱い、料理に使う水までも長野県の純米吟醸酒の仕込み水を2t単位で取り寄せているほどの凝りようである。

「がんじがらめにならず、自信を持って出せるものに拘って行きたい」と語る鳴神さんから出された1皿目の前菜は、フォアグラのポワレ、2種の調理がなされたアーティチョーク、チーズの「チュイール」が乗ったクレソンのサラダだ。

別々の料理のように映るかもしれないが、皿の中ではつながりを持ち合う4種の盛り合わせで、特に表面が香ばしく中はバターのような舌触りのフォアグラが印象深い。

「アーティチョークのババロワ仕立て、世羅高原のクレソンのサラダ フォワグラのポワレと一緒に」(鳴神八宝のコースより)。

「ナルカミ」では「トルセ(紙包み)」にされたフォアグラを使っている。採れた当日に紙に包んで出荷するため、真空パックされたフォアグラと比べると、締り具合や繊維質がそのまま味わえる点が違う。ギリギリに火入れされた鮮度の良いフォアグラから静かに食事は始まった。

前菜2品、魚料理、アクセント、肉料理、デザートで構成される夜のコース「鳴神八宝」(1万3650円)の2皿目は冷たい前菜である。濃厚なタコの冷製スープの上に、北海道・余市産のタコのくん製、ツブ貝とセロリのエキスが加えられた泡状のクリームソース、ハーブが合わせられている。

「クラリフェ」という丁寧なアク取りがなされたジュレ(ゼリー)状の濃厚なスープはキラキラと輝き、口に含むと磯のものとは思えないほどさわやかで心地よい「香り」が抜けて行く。

「余市タコの冷製スープとタコのくん製 ツブ貝とセロリのジュレとハーブをアクセントに」(鳴神八宝のコースより)。真ん中にあるのはタコのくん製。

3品目は、キャベツと北海道産のタラバガニをズッキーニの衣で包み、ほんのりと酸味を感じるソースでベールをまとわせ、芽ねぎを添えたひと品である。この料理に使われているソースは、鳴神さんがフランスの「トロワグロ」にいた時に考案したスペシャリテをアレンジしたものだ。

2001年にミシュランガイドと並ぶフランスの料理評価本「ゴー・ミヨ(Gaut Millau)」で、「トロワグロ」が20点満点中19点という当時の最高得点を獲得した際に大きく貢献した鳴神さんならではのソースなのである。

フランスでの修業時代、「トロワグロ」ファミリーの食事会で「チャンスを狙っていた」と語る鳴神さんは、乾物の保存された食納庫で日本の食材を手にして「和食のだし」を取り、ソービニヨンブラン種(白ワインのぶどう品種)のワイン1本を数滴まで煮詰めたものと合わせてソースを作った。

「北海道産タラバガニ ズッキーニの衣蒸し ブイヨンジャポネーズのアンカケ風」(鳴神八宝のコースより)。

日本人にしか考えることのできないこのソースは「ブイヨン・ジャポネーズ」と名付けられた。でん粉の中でももっとも粒子の細かい「吉野葛(よしのくず)」であんかけ風に仕上げられたソースは、優しく具材を包み込み、なめらかに口で溶け出す。

「僕にしか発想できない料理を作りたい」と話す鳴神さんの料理には、どの皿にも決して表立って出ることのない食材を重ね合わせるための精巧な細工がなされている。

それは確かな技術と感性に裏打ちされたものであり、鳴神さんの顔が見えずとも、口に運べば「シェフの顔が思い浮かぶ」-そんな料理といえるだろう(【OL銀座食楽部】では複数のフードアナリストの女性が実際にレストランを訪れ、そのレポートを毎週、金曜日から週末に掲載します。今回は自ら築地で仕入れも行うサロネーゼ薫子さんが書いています)。

注:「フォアグラ(foie gras)」は強制的に肥大化させたガチョウや鴨の肝臓。

注:「ポワレ」とは鍋で切り身状の肉や魚などを高温で短時間で焼くこと。

注:「アーティチョーク」はキク科チョウセンアザミ属の多年草で、日本では朝鮮アザミ)と呼ばれ、若いつぼみを食べる。

注:「チュイール」は卵白を使った薄焼きのアーモンドクッキーのこと。

注:「クラリフェ」とはだし汁などのアクをこして、澄ますことをいう。

注:「トロワグロ(Troisgros)」はロアンヌにあり、1930年に開店し、1968年以来3つ星を獲得し続けており、3代目のオーナーシェフ、ミッシェル・トロワグロさん(1958-)は1996年に就任し、「2003年ゴー・ミヨー」の最優秀シェフ賞を受賞、2004年にレジョン・ドヌール勲章を受勲した。

店名=「レストラン ナルカミ(restaurant NARUKAMI)」(中央区銀座6-13-7、新保ビル地下1階、03-6226-2225)

営業時間=ランチは11時30分から14時(注文時間)、ディナーは18時から21時(注文時間)、月曜日定休、ゴールデンウィーク中は5月5日から8日まで休み。

料金は昼が4725円(平日のみ)、6300円、8400円のコース。夜は7875円(平日のみ)、1万500円、1万3650円のコース。サービス料は昼夜共に10%。

URL= http://www.restaurant-narukami.com/
日本フードアナリスト協会

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