コラム・レポート

楽天主義のインド人の口癖はノープロブレム(76)

楽天主義のインド人の口癖はノープロブレム(76)金沢兼六園にてわが夫クヌ。毛糸帽の上にさらにフードを被って北陸の冬にぶるぶる、ノープロブレムじゃないよー。

(今週はOL銀座食楽部は休載します)
【印度の玉手箱】これまでエッセイでは、インド人の欠陥ばかりをあげつらってきたが、ここらで長所に視点を変えよう。インド人の口癖は「ノープロブレム」、そう、ずばりこの慣用句そのまま、インド人は超楽天主義である。近年、経済発展が著しいインドとはいえ、依然社会の大半を占めるのは貧困層だ。

ミドルクラス以下の庶民は生活苦にさいなまれているわけだが、インドなまりのある英語で「ノープロブレム」と連発し、明るくたくましく生きているのである。いやはや実にしたたかな草の根精神、ひ弱な文明人とは大違いである。

亜熱帯国という風土のせいもあろう。物事を深刻に捉えない気性は、ただでさえ苛酷な風土に生きる人々の知恵かもしれない。ハードな環境に叩かれ抜かれているから、インド人は鋼のように強い。転んでもただでは起きない、とくに下層民のタフさはあっぱれである。


金沢片町のアパヴィラホテルにてくつろぐ夫。展望温泉、熱くて入れなかったよー、トホホ、ノープロブレムじゃなかったです。

亜熱帯国という風土のせいもあろう。物事を深刻に捉えない気性は、ただでさえ苛酷な風土に生きる人々の知恵かもしれない。ハードな環境に叩かれ抜かれているから、インド人は鋼のように強い。転んでもただでは起きない、とくに下層民のタフさはあっぱれである。

かくいうわが亭主クヌも楽観主義、神経質な文明気質を備えた日本人妻の私は、夫の能天気な性格がうらやましくてならない。

「ねぇ、サミール(息子)のインドビザがもうすぐ切れるんだけど、延長手続き大丈夫かしら」

日本のパスポートを有する息子のビザの有効期限切れが迫っているのを憂慮して、夫に糾(ただ)す私。何せ南インドのバンガロールで勉学中を理由に、当地プリーでは下せないと過去いちゃもんつけられ、散々取得に苦労したいきさつがあったのだ。

金沢片町の王将にて。安くてボリューム満点の中華料理に舌鼓(したずつみ)。日本食は苦手な夫もノープロブレムでした。

「ノープロブレム」

と夫は一言、悠々たるもんである。

「この間買収したオフィサーをうちに呼んでパスポートを見せてバクシーシ(袖の下)を弾めば、ノープロブレムさ」

インドはワイロ社会で、役人はお金で買うことができるから、ノープロブレムなのだと断言する夫に、ほっとする私。

「あとさぁ、サミールが22歳になるまでに、どちらか一方の国籍選択をしなくちゃならないんだけど、どうする?2011年の9月だから1年半しかないよ」

タイのホアヒンビーチは朝は満潮で浜に下りることはできず、屋外レストランのチェアから眺めるのみ、でもノープロブレムね。

「日本で、ノープロブレムだよ」

「でもさぁ、日本経済が頭打ちなのに比べると、インドはこれから経済発展して大国にのし上がると思うんで、インドも決して悪くないような気がするんだけど。サミール自身はどう考えてるのかしら」

「親が決めればいいことさ、ノープロブレム」

「でもさ、日本国籍を選択すると、こっちの不動産とか、ちゃんと彼の名義になるの」

「ノープロブレム、インドの出生届けを見せれば、オーケーだよ」

その後もぐずぐず言う日本人妻に夫はひたすらノープロブレム宣告、やっと納得いって黙る私。話はそれるが、日本のパスポートは各国とビザ提携を結んでいるので、簡単にビザがもらえるので便宜上ベストなのである。
インドのパスポートでは他国に行くにも、ビザひとつとるのすら苦労する。それに、日本国籍はいったん捨てると、取り戻すのが大変で、帰化するしかないわけだが、30年かかるか、下手すると永久にとれないこともあるそうだ。

「そうね、やっぱり日本国籍でオーケーね、ノープロブレム!」

23年暮らすうちにすっかりインド人化した私は、インド人夫の連発する口癖が感染したかのように断固とした口調で放っていた。
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)
ホテル・ラブ&ライフ

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