コラム・レポート
外食の不満を癒し、気持ちよく帰れる和食を供する店主(136-2)
【OL銀座食楽部】旬の魚介や野菜を用いて和食をベースに店主独自のアレンジを施したコース料理を出す店「はしば」は、築地市場のほど近くにある。築地と言えば「魚」、寿司も出す店だからこその立地と想像しがちだが、店主の羽柴靖彦(はしば・やすひこ)さんがこの場所を選んだのは、街を何度も歩いて得た感覚が良かったからだ。
独立前に勤めていた寿司店のお客さん、その口コミでの来店客などが訪れ、店の存在を知ってもらうために始めたランチ営業で近隣のOLからも支持を得て、2年の月日の中で築地の街に馴染んできた。試行錯誤を重ねてようやく「はしば」らしい料理が提供できるようになってきたのでは、と羽柴さんがはにかんだ笑顔を見せる。
開店以来、外食した際に自らが客として感じた違和感をお客さんに抱かせぬように心掛けてきた。「はしば」はいつも、「お腹いっぱいで、気持ちよく帰れる」店でありたいという思いで羽柴さんは厨房に立つ。
作る料理の基本は「自分が食べたいもの」、でも決して「俺さま料理」でないのはこの気持ちがあるからだ。コース料理ではあるが、お決まりの料理ではなく、それぞれのし好や胃袋の容量に合うよう臨機応変に対応するのも、おのおの異なる「満足」を、それなりに感じてもらうための手法なのだ。
パン、先付、焼物2種の後に私の前には、刺身が出された。ネタ4種のうち、中華鍋でリンゴのチップを1、2分焚(た)いてスモークしたというカジキマグロが印象深い。しょう油を付けるとじわっと染み出る脂の乗り具合に「旬」を感じる。くん製は他の魚でも用いる手法で、チップは桜を使う時もあるそうだ。
くん製の香りに誘われてワインが欲しくなる。羽柴さん自身も好むワインは常時18種はあり、店には専用のセラーもある。ブランデーやウイスキー、焼酎、リキュールなどもあり、料理も飲み物を選ばないので1品ごとに変えてみてもいいだろう。
蒸し物の茶碗蒸しは、シンプルに玉子とだしのみの組み合わせでいただく。艶やかなコハク色のカツオだしには紀州の梅干しが浮かび、視覚でも味覚でも全体を引き締めるアクセントになっている。
なめらかな口当たりを作りだす秘訣を尋ねると、火加減に気をつけることだと返ってきた。「地道に、自分がやるべきことをやる」と語った仕事への心意気が、こうしたシンプルな料理にこそ表れるものだと改めて感じさせられた1品だった。
だしの旨みを堪能した後は、締めの食事「まぐろのづけ丼」だ。鮮やかな盛り付けを目にして、再び湧いた食欲に後押しされて箸(はし)を付けると、茶碗蒸しまでで十分満足しているはずの胃袋に不思議と収まってしまう。
だしを取った後のカツオ節にしょう油と砂糖で味付けをして130度Cのオーブンで30分乾かして作ったふりかけと、めかぶ、ガリが生み出す「サクサク、ヌルヌル、カリカリ」という食感が小気味よい。
練りゴマとしょう油をブレンドしたゴマじょう油がほどよく染みた寿司飯の酸味と甘味、塩味、うまみが混然一体となった味わいにご飯だけでも箸が進んでしまう。
漬けまぐろとの相性もよい、どこでも見られないオリジナル丼だ。ランチとしても提供されるこの丼(1000円)に、周辺のOLたちが感度のよい美味探求のアンテナを持っていることが分かる。
しょうがの辛みを生かしたさっぱり風味のガリもジンジャーブームの中で女心を捉えるのに一役買っていることだろう。
少し固めに焼きあげられた甘味のプリンも女子必食だ。プリンは「少しでいいという人にはそれなりに」、量を加減できるよう大きく焼いたものを盛り付けている。
バニラビーンズが香る濃厚なプリンは、同じ玉子の蒸し物でも茶碗蒸しとはまったく違う。料理人のさじ加減で素材が七変化(しちへんげ)する醍醐味(だいごみ)を堪能した。
「特に変わった料理は作っていないんです」と羽柴さんは笑う。人生の岐路(きろ)で羽柴さんを支えた縁を呼び込み、「はしば」の「気持ち(居心地)のよさ」を作りだしているは何よりもこの笑顔かもしれない。
楽しんで店を切り盛りできるようになるまでには半年かかったという「はしば」が、これからどう進化していくのか、時々顔を出して見守りたい(【OL銀座食楽部】では複数の女性が実際にレストランを訪れ、そのレポートを毎週、金曜日から週末に掲載します。今回は食の「鉄人」になりたいayakoさんが書いています)。
店名=「はしば」(中央区築地6-14-7、築地原田ビル1階、03-3248-2088)
営業時間=17時30分から22時(注文は21時まで)。日曜日・祝日が定休日。要予約。
席数は12席。
料金はおまかせコースが6000円から、ご飯物が付かない酒肴コースは4000円から。ビール500円から、日本酒800円から、焼酎が650円から、グラスワイン1000円、ボトルワイン3500円から。席料等なし、カード払いは7%の手数料が加算される。
URL=http://www.hashiba-tsukiji.com/





