コラム・レポート

タランティーノ「バスターズ」は戯曲にもできる面白さ(18)

タランティーノ「バスターズ」は戯曲にもできる面白さ(18)現在、公開中の「イングロリアス・バスターズ」((C)2009UniversalStudios.ALLRIGHTSRESERVED.)。

【ケイシーの映画冗報】「イングロリアス・バスターズ」(Inglourious Basterds)の監督(兼脚本)であるクエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)は、監督と脚本を兼ねた長編映画2作目の「パルプ・フィクション」(Pulp Fiction、1994年)で、カンヌ映画祭のパルムドール(最優秀)賞とアメリカ・アカデミー賞の脚本賞を受賞した実力派です。脚本を提供しただけの映画もあり、俳優としても多くの作品(自作を含む)にも出ています。

母親の影響もあって映画好きとなったタランティーノは、1980年代に全盛を誇ったレンタルビデオ屋の店員として働きながら、映画の脚本に取り組んでいました。ここで古今東西、ありとあらゆる映画を観まくったことが、青年タランティーノの内部に膨大な映画に関するアーカイブを備蓄させたと想像されます(ご本人は「働きながらだから、それほど観てないよ」とコメントしていますが)。

彼の映画指向は傑作、名作だけではなく、過去に埋もれてしまうようなB級やC級にも向けられています。輸入され(アメリカですから)、英語版の吹き替えで作られた日本の映画にも憧憬を抱いており、「仁義なき戦い」シリーズの深作欣二(ふかさく・きんじ、1930-2003)や「網走番外地」シリーズの石井輝男(いしい・てるお、1924-2005)といった映画監督に影響を受けたことを公言しています。


クエンティン・タランティーノ監督の作品としては最大の興行収入となった。

「パルプ・フィクション」の脚本のなかで、日本刀を振りまわすブッチ(ブルース・ウィリス=Bruce Willis)のアクションを「ケン・タカクラ(高倉健)のように」とト書きで指定するほど。

そんな背景があるからでしょうか?かつて関西ローカルで携帯電話のCMに出演した際には、壁までフッ飛ばされたり、頭をガラステーブルに叩きつけられたりしながらも携帯電話を離さず、「喋りタランティーノ」と自分の名前を日本語の駄洒落(だじゃれ)で語る、というコミカルな自分自身を演じたことも。ちなみに、ご本人も日本語でギャグを言っていることは理解していたそうです。

本作は第2次世界大戦(1939年から1945年)中のヨーロッパの戦場が作品世界となっていますが、歴史的な史実とは関係なく、「ファンタジー」といっても過言ではないでしょう。国家社会主義ドイツ労働者党(いわゆるナチス)の首脳が、フランスの小さな映画館で一堂に会するのですから。

全5章の核はアメリカ陸軍中尉アルド(ブラッド・ピット=Brad Pitt)が率いる「イングロリアル・バスターズ(名誉なき野郎ども)」がドイツ軍占領下のフランスでナチスを倒してゆくさまと、家族を殺されたユダヤ人女性の映画館主ジョシャナ(メラニー・ロラン=Melanie Laurent)が自分の劇場でナチスのプロパガンダ映画を上映することになり、復讐のために一計を案ずる、という2本のストーリーが交互に描かれます。

第62回カンヌ国際映画祭では主演のクリストフ・ヴァルツさんが男優賞を受賞した。

一見、複雑に思える作劇構造ですが、さほど違和感もなく、スンナリと作品世界に没入することができます。タランティーノ監督が生み出す「さまざまな事象(映画のウンチクからドイツ語のなまりまで)を生き生きと語る登場人物たちが、戦場と戦争を舞台として活動する」ことが魅力となって、観客を引きこんでいくのです。

ほめすぎかもしれませんが、映画の脚本としてだけではなく、戯曲としても通用するのでは?と個人的に感じます。キチンと作れば、面白い舞台劇になると思えるのですが。作品全体に散りばめられた、さまざまな映画作品を想起させる台詞(せりふ)やシーン、カット割りやBGMが見事に調和しているのも、タランティーノ映画ならではの楽しみといえるでしょう。

本作の下敷きとなっているのがイタリア映画「地獄のバスターズ」(The Inglorious Bastards、1976年) ということもあって、イタリア製西部劇であるマカロニ・ウェスタンをはじめ、過去の戦争映画からもBGMをチョイスしているのですが、その選択がまたマニアックです。

日本では上映開始後1時間以内に退席した観客には料金を返還するという「面白さタランかったら全額返金しバスターズ」キャンペーンで話題になった。

1960年代のアフリカで活動する傭われ兵を描いた「戦争プロフェッショナル」(The Mercenaries、1968年、現代に直訳すればずばり「傭兵」)、クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)主演の痛快戦争アクション「戦略大作戦」(Kelly's Heroes、1970年)などです。

とくに「戦略大作戦」は戦争モノでありながらコメディ風味の作品で、休暇を利用してドイツ軍の金塊をアメリカ兵の一団がブン取ってしまうというおハナシです。一般的な知名度はありませんが、戦争映画というジャンルでは確実に名作に数えられる1本でしょう。

サウンドトラックも評価が高く、数年前、公開当時の復刻版CDが限定で発売されたところ、アッという間に完売してしまったということも。もちろん、タランティーノ監督はお買い求めでしょう。ワタクシも、買いました。次回は「戦場でワルツを」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します)。

イングロリアス・バスターズ

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