コラム・レポート
「ドラッグ天国殺人事件4」(5)売春夫1人が保釈、他方が自白(61)
(「ドラッグ天国殺人事件4」は連作のオムニバス方式の第4弾で、5回連日で掲載します。第1弾は7月3日から6日、第2弾は7月26日から30日まで、第3弾は8月27日から31日まで掲載しました)
【印度の玉手箱】毎日のご奉仕で、アンリの肛門は切れて血が流れ出した。両刀使いだったロッキーはこれにはいっこうにこたえず、刑事の汚らしいペニスまで頬張ってよっぽど噛み切ってしまいたくなる誘惑をこらえながら奉仕してやったが、精液まで余さず吸い込まされたときはさすがに吐き気を催しそうになった。
盗聴器が仕掛けられているようだとの疑いを持ってから、意思疎通にも慎重になり、うっかり不用意なことはしゃべれなくなっていた。
悪夢のような毎日で、ある日、サドっ気を持つ刑事に、キンタマをかみそりで切り刻まれたときは最悪だった。このまま拷問死してしまうのではないかとの恐怖心におびえ、衝撃は測り知れなかった。死を免れても、不能になったら一巻の終わりで、もうこの実入りのいい商売はできなくなるのである。
が、まもなく、アンリは釈放された。当日夜、ソフィの前に相手をしたイギリス人女性客が、一晩中自分といたとアリバイ証言してくれたのだ。1人残された自分は、とっさの機転で嘘の証言をして助けてくれる者などおらず、残忍な拷問に耐え切れず、ついに陥落してしまい、逮捕令状が出され、凶悪犯ばかり収容されている悪名高い刑務所に護送された。
観念してあの夜のてん末などつぶさに吐いちまったが、口からのでまかせと信用してもらえなかった。何せ、乱闘相手にはれっきとしたアリバイがあったのだから。DNA鑑定などいくらも偽証できたろう。あたら21歳の若さで、最悪のケースは死刑、極刑は免れたとしても、この先一生監獄から出れないと思うと、暗たんたる絶望に見舞われた。
スケープゴートにされたロッキーの後ろで、真犯人がのうのうとしていると思うと、悔しかった。その反面、自分がアンリにけんかを吹っかけたことで、ソフィを事故死させてしまったとの自責の念もあり、己も加害者の1人であることには変わりないと思うと、複雑な心境だった。
ジョーンのようにパワーを持った父親でもいれば、過失致死罪も帳消しにされるのだろうが、卑しい身分の漁夫ではどうしようもなかった。結局のところ、いけにえにされるのはいつも、自分たち最底辺層なのである。しかし、体を売る商売についている弱者の自分にはどうすることもできなかった。
後日、面会に来た仲間の1人から、アンリがゴアを去り、南に下ったケララ州のコヴァラムビーチを根城に、ルイスと源氏名を変えてまた体を売っていると聞いた。そこでも売春王にのし上がっているそうで、一生牢獄(ろうごく)暮らしで美貌を費消(ひしょう)し、無残に老いていく自分と比べて、うらやましかった。
美貌が唯一最大の武器で、若い華のあるうちにせっせと稼いで、金がたまったら、レストランをオープンしようと思っていた夢が木端微塵(こっぱみじん)に打ち砕かれてしまったわけで、このとき自分は心底元商売敵を恨めしく思わずにはいられなかった。
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)
ホテル・ラブ&ライフ

