コラム・レポート
「ドラッグ天国殺人事件3」(5)ビーチボーイの乱闘(56)
(「ドラッグ天国殺人事件3」は連作のオムニバス方式の第3弾で、5回連日で掲載します。第1弾は7月3日から6日、第2弾は7月26日から30日まで掲載しました)
【印度の玉手箱】満月の光に照らし出された銀色の海路へ帆掛け舟を操るアンリの傍らで、赤いビキニ姿のソフィはのびのびくつろいでいた。
「口うるさいママンがいなくて、ほっとするわ」
保護者の監視のない解放感からか、ソフィはアンリが少しやりすぎではないかと憂えるくらい、大麻入りワイン詰めのボトルをひっきりなしに口に運び、ラリっていた。10分くらい航路を取ってまもなく、背後からモーターボートの騒々しいエンジン音が響いてきた。
ロッキーと手下どもだった。モーターボートはほどなく追いつき、不良少年たちが船内に乗り込んできた。ソフィを巡っての激しい乱闘が繰り広げられる。くんずほぐれつするたびにバランスを崩した船が大きく揺らぎ、ラリっているソフィの体が重心を失ってぐぐらかしぐ。
アンリは少女に助けの手を差し伸べようとしたが、滅多(めった)打ちにしてくる敵に立ち向かうのが精一杯で、なすすべもなかった。やっと、ロッキーを打ちのめしたときは、船内からソフィの姿は跡形もなく消えていた。
「おい、ソフィをどこに隠した?」
アンリはこてんぱんに打ちのめしたロッキーの首元を手荒に引き寄せ、往復びんたを食らわせると、目覚めさせ、訊いた。ロッキーは切れて真っ赤になった口中をもごもご動かし、
「知らんよ」
と紫に膨れ上がった顔で答えた。
逃げようとするほかの少年たちを捕まえ、ひとりひとり厳しく尋問する。隣にたゆたっているモーターボートには人っ子ひとりいなかった。
そのときになって、アンリはさすがに事態の重大さに気づいた。男たちが乱闘しているさなか、酩酊していた少女は重心を失って、きっと海中に転げ落ちてしまったに違いない。リーダーを抱え起こすと、少年たちはモーターボートに乗り移り、さっさと退散していこうとする。
「おいこら、ずるいぞ、連帯責任じゃないか、一緒に探せ」と、押しとどめようとしても、その間もないすばやさだった。
アンリは呼び止めるのをあきらめて、即座に海に飛び込むと、赤いビキニ姿求めて、必死に探しまくった。島に出かける気はとうに失せてて、船を駆って浜に後戻りすると、そこで寝ずの番をすることにした。
ソフィは泳ぎが得意だったため、後刻、もしかして海辺にたどり着くような気がしたのだ。北側で行われているらしいパーティーのかすかなざわめきが、潮騒にまぎれて響いてきた。少女が戻ってくる兆しはいっこうになく、いつとはなしに自分もうつらうつらと浅いまどろみに落ちた。
翌朝、目覚めたときには、ソフィはすでにこの世の人ではなかった(了)。
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)
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