コラム・レポート

「ドラッグ天国殺人事件3」(3)美貌のアンリが新キングに(54)

「ドラッグ天国殺人事件3」(3)美貌のアンリが新キングに(54)コカインを吸引する女性。現地では10ルピー紙幣を紙巻タバコの要領で細長く丸め、鼻腔に差し入れ、一気に吸い込む。

(「ドラッグ天国殺人事件3」は連作のオムニバス方式の第3弾で、5回連日で掲載します。第1弾は7月3日から6日、第2弾は7月26日から30日まで掲載しました)
【印度の玉手箱】セシルはアンリよりひと回りも年上だったが、怜悧(れいり)な美貌を湛(たた)えた大人の女性で、初めての女ということもあって無我夢中になってしまった。しかし、やがて、自国に戻らねばならぬ日がやってきて、女は去った。便りを必ずくれると言ったが、それっきりだった。

ともかく、それがきっかけでアンリはホテルを辞めた。「ビーチボーイ」という、楽して稼げる、旨味(うまみ)のある商売があることを知ったからである。

浜やレストランにたむろし、金持ちの白人女性客を引っ掛けて歩くビーチボーイ、いわゆる売春夫たちは、それぞれ個々のテリトリーを持ち、やっかみや中傷による妨害はしょっちゅうだった。

これと目をつけた欧米客を巡って、熾烈(しれつ)な争奪戦を繰り広げていたのだ。アンリの最大のライバルは、やはり自分と同じ「合いの子」との陰口を叩かれていたロッキーだった。


イタリア人との混血でだったロッキーはアンリ同様に肌白で、透明なエメラルド色の瞳を持つ美少年で、2つ上だった。この世界に入ったのは3年前のことらしく、ビーチボーイのキングとして君臨していただけに自信満々で、最初新入りのアンリを見くびっていたが、屈辱をなめさせられる日がほどなくやってきた。

ある日、競い合っていたイギリスからの富裕な年配客が、アンリの側に落ちたのである。以来、競争意識は苛烈(かれつ)になった。ロッキーは金のためなら客を選ばないところがあり、同性もいとわなかったため、実数は、女性のみのアンリとどっこいどっこいだったが、3年後にはアンリが王座をかっさらっていた。

以来、ロッキーは怨念をもつようになり、妨害などの嫌がらせが陰湿になった。客をめぐって一戦交えることはしょっちゅうだったが、玉座についたアンリはものともせず、わが世の春を謳歌(おうか)した。

とにかく、白人女性客からのお誘いがひっきりなしにかかり、体がいくつあっても足りないほどで、シーズンともなると、両手両足に花、掛け持ちでサービスに走り回った。セシルと違って、40年配の欲求不満の醜い女どもを相手にしていると要求がしつこいだけに、嫌気がさすこともあったが、その分報酬はたっぷり弾んでくれるので、我慢して応じるしかなかった。

ときどき、アンリは、セシルと初めて遠出したときのことを思い浮かべ、島の透明な浅瀬で気持ちよさそうに泳いでいた、緑と黄と青の縞模様の発光する美しい魚が、セシルの髪から落ちた赤いハイビスカスをむさぼっていたことを思い出すのであった。今の自分は、花を食う魚ではなく、食虫花に食われる餌食(えじき)のようだと自嘲気味になることもあった。

そんなとき、ソフィを知ったのだ。皮肉なことに、母のカトリーヌは自分の客だった。「デアデヴィル」で4歳年下のソフィと初めて対面したときから、可憐な少女だと好感を覚えたが、この3年のうちに見違えるように女らしくなり、まぶしいくらいピチピチした娘の体つきになっていた。

やせっぽっちだったのが、ノーブラのTシャツの前はテントを張ったように突き出し、短パンの尻は振るいつきたくなるようなまろみを帯びていた。豊満な肉体と裏腹に、ルックスは天使のようにあどけなく可憐で、アンバランスな魅力が地元の不良少年の注目の的にもなっていた。
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)
ホテル・ラブ&ライフ

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