コラム・レポート

「ドラッグ天国殺人事件3」(2)アンリの父親は?(53)

「ドラッグ天国殺人事件3」(2)アンリの父親は?(53)1998年にデビューしたヒンディ映画のスター、ファルディーン・カーン(Fardeen Khan)はコカイン所持で逮捕歴がある。

(「OL銀座食楽部」は今週は休載します。「ドラッグ天国殺人事件3」は連作のオムニバス方式の第3弾で、5回連日で掲載します。第1弾は7月3日から6日、第2弾は7月26日から30日まで掲載しました)
【印度の玉手箱】アンリはこの異人がどうも虫が好かなかった。夜になると、一張羅(いっちょうら)のワンピースで着飾って厚化粧を施した母親とどこかに出かけるのが気に食わなかった。父は見て見ぬ振りだった。スウェーデン人が滞在している間、母は常と打って変わって急に女くさくなり、子供心にもその生な媚態(びたい)が嫌でたまらなかったが、オーステンが去ると、うちはいつもにわかに潤うのだった。

掘っ立て小屋がいつのまにかコンクリートの家に取って代わられ、電化製品などもそろい始めたころ、スウェーデン人の訪問が途絶えた。しょっちゅう来ていたエアメールもぷつりと途絶えた。母はすでに40歳近くになり、スウェーデン人が来なくなって以来、父との間で口げんかが絶えぬようになった。父はハードな漁の仕事を好まず、スウェーデン人のもたらす恩恵にあずかって、それまでぶらぶらする毎日だったのだ。


長男だった自分は見るに見かねて、勉学を放棄し、働くことに決めた。16歳の頃である。最初、ホテルの下働きから始めたが、ある日、思いがけない誘惑の罠が張り巡らされた。泊まり客の白人女性に室内に招かれたのである。

性に興味を持つ走りでもあったため、アンリはセシルという名の美しいフランス女性の誘いについふらふらとなった。そして、セシルの手ほどきで、童貞を喪失したのだ。セシルは、アンリの嫌ったスウェーデン人同様寛大だった。ほしいものは何でも買ってくれ、高級レストランにも連れて行ってくれたうえ、お小遣いもふんだんに弾んでくれた。

「あなたくらいきれいな子は、フランス中探したって、そうそう見つかるもんじゃないわ」
と、セシルはほめそやし、自分にぞっこんだった。

アンリを見せびらかすように連れて歩くのが誇らしげだった。アンリはその類(たぐ)いまれな美貌から、どこに行ってもちやほやされた。同性からの誘惑もしょっちゅうだった。ほかの欧米人から羨望(せんぼう)の目で見られていたセシルは、気に入りの愛玩(あいがん)物を取られやしないかと神経質になるほどだった。

そのくせ、美しい情人が自慢の種で、どこにでも同伴した。父の帆掛け(ほかけ)舟を操って、2人だけで小さな島に遠出したアバンチュ?ルのことは今もって忘れられない。底まで透けて見えるターコイズブルーの入り江に裸で身を浸しながら、飽くことなく戯れあったものだ。
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)
ホテル・ラブ&ライフ

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