コラム・レポート
「ドラッグ天国殺人事件2」(3)DNA鑑定で3人の容疑者はシロに(49)
(「ドラッグ天国殺人事件2」は連作5編のオムニバス方式の第2弾で、5回連日で掲載します。第1弾は7月3日から7月6日まで掲載しました)
【印度の玉手箱】そうなると、過失致死だが、未成年者と交わり、事後放置した犯人の罪は重く、強姦(ごうかん)殺人罪として訴えることができた。
が、同意強姦説をとるなら、なぜ傷が多かったのだろうという疑問も残った。男にマゾっ気があったものか、それとも波にもまれるうちにやはり岩礁(がんしょう)にぶつけたということか。もっとも、このときの男が、レストランの裏でいちゃついていた男と同一人物とは限らなかった。
ホシとはにらんでいるが、そもそも少女と交接の事実があったかどうかが不明だし、仮にあったとしてもコンドームを用いた可能性もありうる。何人の男と交わろうとも、避妊具着用ならば、証拠は残らないのだ。
そうすると、文字通り誰かが無理強いに犯した説も成り立つことになる。あと、溺死体を偶然見つけた変態が屍姦(しかん)したこともありえた。他殺、自殺、事故説と、マックはそれぞれに思いをめぐらし、われながら冴えていると惚れ惚れした。
が、まもなく届いたDNAの鑑定結果はさすがのベテラン刑事をも、混乱の極致におとしいれるものだった。3人のいずれの容疑者とも一致せず、捜査は振り出しに戻った形になったのだ。
事件からひと月が過ぎても、当国の常で捜査がいっこうにはかどらないことに、母のカトリーヌは苛立(いらだ)ち、立腹していた。挙句(あげく)に、「インドの警察は信用できない」とまで、ヒステリックに喚(わめ)きたてる始末だった。
この事件にはドラッグが絡んでおり、警察側としても厄介(やっかい)極まりなかった。日ごろ野放しにしてきた当局の責任が問われるわけで、できることなら穏便(おんびん)にもみ消してしまいたかった。
マック自身も、レストランや売人からの口止め料で常日頃、潤っていたのである。しかし、良心の咎(とが)めを覚えたことは一度もなかった。マフィアや政治家とも密接に結びつき、警察の汚職はこの国では当たり前のことだったのである。みながやっていることだ、とにかくこの口うるさい母親を何とか丸め込んでしまうことが先決だった。
なんとか事故死で片付けてしまうのが一番楽だったが、精液が検出されたとの証拠書類がある以上、そういうわけにもいかなかった。被害者が未成年者ということで、立派に強姦罪が成立するのである。レイプといっても、あの肉体の発育度だ、おそらく合意の上だったろうがな、マックはあごひげを撫でてにやにやした。
ゆうに90cmはあった豊満な乳房と、ふさふさした股間の金色の茂みを思い出したのだ。いいケツだったな、生きていれば、わしも一戦交えたかった。
それから、はっと卑しい顔つきを引き締めると、こうなったら鑑定結果は無視して、3人の容疑者のひとりをスケープゴートにしてしまうしかないと思った。それが一番手っ取り早い方法だ(続く)。
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)
ホテル・ラブ&ライフ


