コラム・レポート
「ドラッグ天国殺人事件2」(2)ソフィーは他殺か、事故死説も(48)
(「ドラッグ天国殺人事件2」は連作5編のオムニバス方式の第2弾で、5回連日で掲載します。第1弾は7月3日から7月6日まで掲載しました)
【印度の玉手箱】厳しく尋問したにもかかわらず、本人は容疑を否定していた。が、誰しも自分に不利な供述はしないものだ、どこまでほんとかわかったものじゃなかった。レストランの裏でいちゃついていた男はエディ本人かもしれなかったし、ロッキーもやたらおどおどして怪(あや)しかった。ただ、アンリだけは、その日はイギリスの女性客をもてなしていたと、アリバイを主張していた。
しかし、所詮(しょせん)いかがわしい売春に身をやつしている輩だけあって、妙にうさん臭いところがあった。故意に2人を同室にぶち込んで、口裏を合わせたりしないか、看守にもそれとなく見張らせていたが、今のところ決め手となる情報は得られてなかった。
どうやら2人は商売敵らしく、初日に少し口を利いただけで、意思疎通はほとんどなく、互いにむっつり黙り込んでいるとのことだった。
レストランを出てからの少女の足取りが今ひとつ不明だったが、裏でいちゃついていた男とトンズラしたとしたら、男の寝屋にでも入り浸っていたものだろうか。ガイドに見つかることを警戒して、23時からのフルムーンパーティーにもおおっぴらに顔を出せなかったにちがいない。
ボートで30分の離れ小島や、山ひとつ越えたバガビーチに出た可能性もあると、念のため、めぼしい外人旅行者に聞き回ったが、それらしき少女は見かけなかったとの答が返ってきていた。
いずれにしろ、死体の発見場所がアンジュナで死亡推定時刻が0時から1時の間だったところを見ると、どこかに出かけた可能性は薄かった。とにかく、顔の割れない正体不明の男を探すことが先決だったが、まったく手がかりはなかった。
ホシにまつわる鍵を握る最重要人物、いや、もしかしてホシ本人であるかもしれないのにだ。エディがホシとはやはり考えにくかった。そもそも、自分がいちゃついていた当人なら、刑事にばらしたりしないはずだし、2時の閉店まで働いていたと主張し、同僚たちもそれは証言していた。
マックは舌打ちしながら、宿泊先のホテルから押収してきたソフィの日記帳をぺらぺらめくり直した。涙をぽろぽろこぼしている自画像や、絞首台で首をつっている自画像から察するに、少女の精神状態はかなり不安定なものだったと思われる。
ビーチボーイ、アンリへの恋心が綿々とつづられているが、肝心の本命からは冷たくあしらわれていたようだ。母子家庭という複雑な家庭事情や、実らない恋を悲観しての自殺も十分ありえた。崖から足を滑らせたというより、ついふらふらと誘惑に駆られての自死ということだ。だが、自殺といっても、あのヒステリックな母親のことだ、きっと納得しないだろう。
他殺説をとるならと、マックはまたしても考え込んだ。事件が起きたのは真夜中近く、いまだ熱狂と興奮に渦巻くフルムーンパーティー会場から死角になった、崖の縁の入り江でだった。
男と人気のない水中で睦み合ううちに、大量のドラッグでラリっていた少女は突然意識不明に陥った、恐くなった男は置き去りにして逃げた、放置された少女は波にさらわれ溺れ死んだ、これが一番ありうる仮説だった(続く)
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)
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