コラム・レポート
「ドラッグ天国殺人事件」(3)ソフィが消えた(45)
(「ドラッグ天国殺人事件」は連作5編のオムニバス方式の第1弾で、4回連日で掲載します)
【印度の玉手箱】さすがにトミーはむっとなったが、大事なお客でもあるため、じっとこらえた。
「少し、あたしを独りにしてくれない、ここからどこにも行かないからさ」
ぷーっと頬を膨らませて抗議する少女を見るに見かねて、エディが口出しした。
「おい、おまえ、ちょっと浜でも散歩してきたら、どうだ。ソフィだって、そう始終見張られたんじゃあ、窮屈でしょうがないよ。思春期の遊び盛りなんだよ、わかるだろう、心配なら、俺が代わりに見張ってやるからさ」
少女に気があり、何とかものにしようと躍起になっているエディが代理ではまったく信用ならなかったが、ソフィが碧(あお)い瞳で冷ややかににらんでいるので、渋々、
「じゃあ、30分だけだよ、ソフィ、どこにも行くんじゃないよ」
何度も念を押して椅子から立ち上がった。店を出る直前、エディと仲睦(なかむつ)まじげに話し込んでいるソフィを確認し、その先にちらっと目をやると、アンリが新顔の女性客と親しげに会話を交わしていた。
たいてい醜く肥満した年配女が客としてついていたが、珍しく30歳前後の若く美しい女性だった。長年ガイドをしている勘から、イギリス出身のように思われた。どうやら到着してまもないようだ。
ソフィが苛立(いらだ)って憎まれ口を利くのは、きっとジェラシーのせいもあるに違いなかった。アンリは3年越しの少女の求愛は重々承知で、知らん振りを通していたのである。母に買われた分際である上、利口な男だから、未成年者と関わると、後々厄介(やっかい)なことになると警戒しているのかもしれなかった、
トミーはいまだ野性味が損なわれずにいる壮大な夜の浜を、腕時計とにらめっこしながらあてもなく漫歩した。今夜はフルムーンだった。滴(したた)る月光に椰子樹(やしのき)が青白いシルエットを描き、穏やかなアラビア海は銀箔(ぎんぱく)を流したように照り映えていた。
時計の長針が半周し20時30分になった頃合を見計らって、そそくさと店に戻った。まんまとしてやられたと思ったのはこのときだった。少女の姿は跡形もなく消え失せていた。エディに問い詰めると、トイレに行くと言って出たきり、戻らなかったという。斜め前のテーブルに座っていたアンリと女性の姿も消えていた。
「おい、どこに行ったんだよ」
襟元をつかまんばかりの勢いで語気荒くただすと、
「知らねえよ」
とエディはつっけんどんだった。
モーションかけてるソフィに肘鉄(ひじてつ)を食らったので、彼自身も悔しがっているようだった。トミーは行方をくらましてしまったじゃじゃ馬娘の居所をなんとしてでも、突き止めねばならなかった。
1時間ほど、浜やほかのレストラン、宿泊先を調べ回った挙句(あげく)、あきらめて一旦オフィスに戻った。23時からフルムーンパーティーが催されるので、そのときになればきっと会場に姿を現わすだろうと、楽観したのだ。
1時間半後、浜に出てみた。まばゆい月のしずくに照らされた海岸は、世界各国からの若者の熱気でむせ返るようだった。焚き火(たきび)を囲んでギターをかき鳴らすグループがいるかと思うと、コンピューターミュージックをがんがん鳴らして踊り狂う連中、共通しているのは誰も彼もがドラッグと酒でハイになっていることだった。
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)
ホテル・ラブ&ライフ


