コラム・レポート

「ドラッグ天国殺人事件」(2)ソフィ、19歳の少年に無視される(44)

「ドラッグ天国殺人事件」(2)ソフィ、19歳の少年に無視される(44)椰子と岩礁の取り合わせが野性的なアンジュナビーチ。

(「ドラッグ天国殺人事件」は連作5編のオムニバス方式の第1弾で、4回連日で掲載します)
【印度の玉手箱】アンジュナビーチで一番人気あるレストランは「デアデヴィル」だった。ソフィの行きつけの店でもあり、昨日も朝から晩まで入り浸(びた)っていた。彼女の目的が、ビーチボーイのアンリにあることは言わずと知れていた。

ビーチボーイとは、欧米人に体を売って生計を立てている若者のことで、現地人らしからぬ肌白さと碧(あお)い瞳を持つ絶世の美少年、アンリは数ある売春夫のなかでも、その類まれな容貌でひときわ際立っていた。

若干19歳でビーチボーイのキングとして君臨していたのである。アンリは性別問わず相手にする下級売春夫と違って、女性のみしかとらなかったが、富裕な年配客がひっきりなしに群がり、掛け持ちでサービスに走り回る超売れっ子だった。


商売と私情をミックスしないクールさでも知られており、それだけに外人の女たちは彼のオーラに魅せられたごとく、蛾(が)のように寄り集まってきた。

アンリは、可憐なルックスと裏腹に、豊満な肢体がアンバランスな魅力を醸(かも)している15歳の少女を、なぜか鼻も引っ掛けなかった。土地の不良少年どもはみな、ソフィに目をつけていたというのにだ。ソフィはその日も意中の人に無視され、傷ついていたようだった。

ソフィに気があるレストランのマネージャー、エディが、少女の機嫌を取り持つようにスペシャルドリンクを運んできた。ヌーディストビーチとして一世を風靡(ふうび)したヒッピー全盛期に比べると、ドラッグの取り締まりはかなり厳しくなっていたが、抜け穴はいくらもあるもので、この雇われマネージャーは安給料の足しとして密かに、白人客にドラッグの売買を取り持っていた。

アンジュナビーチにあるこぎれいなビラ風リゾートホテル。

エディが持ってきたのは、大麻入りアルコールで、「バング」という練り物を溶け込ました白ワインはオリーヴがかった妖しげな濁りを帯びていた。

オーナーもぐるで、見て見ぬ振りである。警察にはバクシーシーと称して、毎月一定料金の口止め料を弾んでいるので、要望さえあれば、おおっぴらに出していたのだ。母の監視の目から解放されたティーンエージャーは、伸び伸びと振る舞い、少しやりすぎじゃないかと思うくらいスペシャルドリンクのお代わりをしていた。3杯目をオーダーしたとき、トミーもつい、口出しせざるを得なくなった。

「ソフィ、それくらいにしといたほうがいいよ。バングが胃から直接吸収されることもあって、強烈な効き目なのは知ってるだろう」

ソフィは顔に似合わず結構ワルで、母の目を盗んで、やれ、スピードだの、コカインだの、ブラウンシュガーにも手を出していた。実は母親自身もドラッグ常習犯で娘の手本にならなかったが、自分のことは棚に上げて子供にはやたら厳しかった。

トミーはカトリーヌが昨夏、アンリをこっそり買ったのも知っていた。それにしても、ソフィも、初めて会った12歳のころはまだしも可愛げがあったが、思春期に入るにつれ、どんどん発育していく肉体とともに生意気になっていった。トミーはソフィがとっくにヴァージンでないとにらんでいた。

「ふん、何さ、たいそうな口を利くのはよしてよ。あんたなんか、たかがママンに金で雇われたガイドじゃないの。人がせっかくエンジョイしてるってのに、水を差すようなこと言ってさ。とにかく、そう四六時中あたしに付きまとうのはやめてくれない、うっとうしくてしょうがないわ」

少女とも思えぬ小憎らしい口を利くのだった。
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)

ホテル・ラブ&ライフ

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