コラム・レポート

「ドラッグ天国殺人事件」(1)ソフィ15歳が死んだ(43)

「ドラッグ天国殺人事件」(1)ソフィ15歳が死んだ(43)ヒッピー全盛時、欧米人ツーリストの溜まり場だったゴアのアンジュナビーチ。

(「ドラッグ天国殺人事件」は連作5編のオムニバス方式の第1弾で、4回連日で掲載します。テーマは一貫していますが、ストーリーごとに完結しており、個別に読めるようになっており、第2弾は間を置いて掲載します。また、今週の【OL銀座食楽部】は休載します)
【印度の玉手箱】昨夜フルムーンパーティーでしたたかに酩酊して、椰子樹(やしのき)の根元でうっかり眠りこけてしまったトミーは、周囲の物々しい雰囲気で、ハッと目覚めた。ドラッグとアルコールのちゃんぽんのせいで、後頭部がずきずき痛んだ。

時計を見ると、午前9時過ぎだった。のろのろと起き上がって、ふらつく体をホテルの立ち並ぶ崖の方角に進めたが、中途で警官とすれ違ったことが妙に気になって、黒山の人だかりのするほうへ寄ってみた。不吉な胸騒ぎを覚えたからだ。

トミーがとっさに人ごみを掻(か)き分けて前に進むと、一目で異人とわかる全裸の水死体が打ち上げられていた。悪い予感がぴったし当たって、トミーはその場にへなへなと座り込みそうな衝撃を受けた。

15歳のソフィの天使のようにあどけなかった面差しは海水を吸い込んで醜く膨れ上がり、青ざめた肌白の肉体には藻が絡み付いていた。年頃に似合わず発育のいい豊満な肢体が、土地の男たちの好奇の目にさらされるのに耐えられず、トミーはとっさにシャツを脱いで死体にかけようとしたが、警官に遮(さえぎ)られた。


その拍子にノド元にこみ上げる嘔吐感(おうとかん)があり、戻しそうになる口元を必死に押さえ、がくがくする膝をかろうじて支えた。後から駆けつけた別の警官が物見高い群集をこん棒で制しだした。

青いビニールカバーが露わな仏様にやっとかけられると、トミーはほっとして、放心状態でふらりと歩き出した。それにしても、いったい、このてん末を母親のカトリーヌにどのように説明したものだろうかと思うと、頭を抱え途方にくれた。

毎年、バカンスで有名な西インドのビートリゾート地、ゴアにやってくるフランス人母娘は、トミーの上客だった、いつも母娘3人のみで、父親は姿を見せず、詳しい事情はよくわからなかったが、客商売上詮索(せんさく)しないようにしていた。一度だけソフィは自分の父には別の妻子があると寂しそうに漏らしたことがあり、私生児かと疑ったものだ。

パラセイリングなどウオータースポーツもポピュラー。

養育費は出ているようで、何不自由ない生活を送っているらしかったが、複雑な家庭の事情は思春期の少女に翳(かげ)を落としていた。一見、天真爛漫(てんしんらんまん)に見えて、自暴自棄でワルぶる一面も、そんなところに原因があるのかもしれなかった。

それはさておき、野暮ったいけれど誠実が唯一取り柄の自分は、母親のカトリーヌに滅法(めっぽう)気に入られ、今回も常連として案内役を務めることになったのだった。母親が前回見逃した野生動物保護区に行きたいとの希望を漏らしたので、早速車の手配をし、付き添うつもりでいたが、娘がゴアにとどまりたいと駄々をこねたため、信頼している自分の監視下に託して母親は単身出かけて行ったのだ。

まさかこんなことになろうとは予想だにしていなかっただけに、トミーは責任問題でもつれる今後の厄介(やっかい)さを考えると、暗澹(あんたん)たる思いにとらわれた。心を落ち着かせ、冷静になって、昨夜のソフィの足取りを今一度反すうしてみた。
(【印度の玉手箱】はインドで暮らすモハンティ三智江さんがエッセイやショートストーリーを不定期に書きます)
ホテル・ラブ&ライフ

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